B:大河の主 プテリゴトゥス
低地ドラヴァニアにとって「サリャク河」は、シンボルであり、水の恵みをもたらす母でもある。その母なる大河を支配しているのが、大型の甲殻類「プテリゴトゥス」さね。
動く物なら見境なしに、尾っぽの鋏で細切れにして、瞬く間に平らげちまう大食らいの化け物さ。尾の動きには、注意するんだね。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
低地ドラヴァニアには学術都市シャーレアンの入植地があった。お偉い方々は「大撤収」なんて大仰な言い方をしているけど、ガレマール帝国が侵略してきた際に夜逃げさながらの体で一夜にして北洋に浮かぶシャーレアン本国に逃げ帰ったのは有名な話だ。
その入植地時代の廃墟が残る低地ドラヴァニアを真ん中で分断する形で霊峰ソーム・アルから流れ集まってきた水がサリャク河という大河になって悠々と流れている。このサリャク河はまさに低地ドラヴァニアのシンボルであり、そこに生きる者に命を与える恵みの川、母なる大河だ。
その美しく雄大な大河とは対照的な容姿をしたこの巨大甲殻類のプテリゴトゥスがこの河の主と呼ばれている。
その姿は動きは蠍のよう、見た目はシャコのよう、部分的特徴はハサミムシのよう。
地面を這うように進むそれが思っていた以上に素早くあたしに接近し、体を捻って先が鋏になった尾を振った。振られた尾に余長があるのに気付いた。後ろに逃げればリーチを伸ばす気だろう。あたしは逆に懐に飛び込むように避けると頭を下げて通過する尾の下をくぐり、素早く間合いをとる。振り向きながら詠唱を始め杖をふろうとした。だが視界にプテリゴトゥスを捕え魔法を放とうとしたときにはもう間合いを詰められていた。慌てて再度尻尾の攻撃を転がりながら躱すのだが立ち上がる頃には次の一撃が放たれてくる。防戦一方になった。
まずい、早すぎる。
あたしはプテリゴトゥスの攻撃を何度も躱しては攻撃の機会を窺っていた。だが息も上がってくる。反応速度が自覚できるくらい遅くなってきている。プテリゴトゥスの攻撃が体を掠り始め、服が裂ける。
時間が欲しい!詠唱する時間が!
このままではいつまでももたない事はあたしが一番よくわかっている。
あたしは心の中で相方と二手に分かれたことを後悔していた。低地ドラヴァニアはサリャク河で完全に二つに分断されている訳だが、そのどちら側もそれなりの面積があり施設の廃墟が残されている。二人一緒に捜索していたのでは3日も4日も捜索することになる。だからエリアを分けて一人づつ手分けして別行動でモブを探し始めたのだ。その結果、通常は盾役がヘイトを集めることで魔道士には攻撃に必要な詠唱のための時間を稼ぐことが出来るのだが、今回は敵が素早いことに加えターゲットがあたし一人な為詠唱するために必要な時間が稼げないのだ。プテリゴトゥスの攻撃が比較的単調で直線的だから運よく躱せているがそれもそろそろ限界だ。あたしの足はスタミナ切れで縺れ始めていた。
そしてついにプテリゴトゥスの攻撃を躱した勢いであたしは地面を覆う芝のような大地へ頭から突っ込む形で盛大にすっ転んでしまった。
あたしの脳裏にクラン・セントリオの担当者の話が蘇る。
「動く物なら見境なしに、尾っぽの鋏で細切れにして、瞬く間に平らげちまう大食らいの化け物さ。」
プテリゴトゥスの尾についた鋭利な鋏は人の胴くらいなら軽々切断する。その鋏が地面に転んでいるあたしを細切れにしようとロックオンしている。
これは、もう、躱せない。
尻もちを付いたあたしは死を覚悟して目を瞑った。
ガキイイイイっと耳障りな激しい金属音が周囲に響いた。
「ギリギリセーフ!」
盾で鋏尾を受けながら相方が肩で息をしていった。
「こんなに走ったの久しぶりよ」
相方はあたしを見下ろしながらそう言うとニッと笑い、プテリゴトゥスへ向き直った。盾で鋏尾を押し返し、体勢を整える。
それと同時にあたしは横に鉛筆を転がすようにゴロゴロっと転がり出て立ち上がると杖を構えた。
「助かった~!やっとのんびり詠唱できる」
そう言うと盾役を相方に任せ、丁寧に目までつぶって、心を込めて詠唱し杖を振った。するとプテリゴトゥスの真上に発生した超高熱の鋭い焔柱が一気にプテリゴトゥス目掛けて飛び、堅い甲殻をいとも容易く突き破り、甲殻に守られた柔らかい肉をこんがりと焼き尽くした。